りぼんの読書ノート

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イエメンで鮭釣りを(ポール・トーディ)

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北洋を回遊する鮭を、砂漠の国イエメンに放流する? スコットランドに広大な地所を持ち、鮭釣りを愛するイエメン人の富豪シャイフからの依頼は、母国の枯れ川(ワディ)に鮭を移入したいという、前代未聞の無謀なプロジェクト。

国立水産研究所に勤めている研究一筋の真面目な学者フレッドは、非科学的で不可能と返事をしたものの、なんとこの計画に首相官邸が興味を示したために、上司の命令で全面協力を引き受けさせられてしまいます。

フレッドを追い込んでいくのは、個性的なキャラの面々。深い信仰を持ち、聖者の面影すら漂う大富豪のシャリフ。シャリフの代理人で、イラクに派遣された婚約者の中尉と連絡が途絶えてヤキモキしているハリエット嬢。無能で保身に走るくせにプロジェクト管理をして点数を稼ごうとする官僚的な上司。ピントがずれているのに傲慢で大物ぶっている首相直属の広報官。夫のフレッドを無視して海外に長期出張中のキャリアウーマンの妻・・。

コミカルな展開だけど、登場人物はそれぞれの立場で大真面目。計画が表面化するに連れて、マスコミやら、釣り愛好家やら、動物保護団体やら、釣具業界やら、「外野」からの声もやかましくなってくる。シャリフを暗殺しようとしてアルカイダが送り込んできた素人殺し屋を、鮭釣り名人が釣竿の一振りで撃退するなんていうエピソードもありました。

奇跡は起こるのでしょうか。計画はどこに行き着くのでしょうか。ユーモア小説の賞を受賞した作品ですが、信仰と人間関係がもたらす心のあり方についての深い洞察すら感じます。

2009/6