りぼんの読書ノート

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ハイク・ガイ(デイヴィッド・G・ ラヌー)

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ニューオリンズの大学で英文科教授をしている著者は、20年来の俳句研究者だそうです。本書は、伝統的な俳句と現代小説を組み合わせた実験的な試みであると同時に、フィクションを装った「ハイク・マニュアル」にもなっている楽しい本に仕上がっています。

日本が誇る俳句マスターの小林一茶(英語ではCup Of teaですって^^)と、彼の架空の弟子を主人公として、江戸時代の信濃から現代アメリカを縦横無尽に駆け回らせてしまう展開は、小説としての出来栄えはともかくとして、楽しく読めました。著者自身や著者の友人たちも登場して、一茶たちと交流しちゃうんですよ。一茶の弟子に「デッパ」のネーミングはどうか、と思うんですけど・・^^;

著者の俳句解説をひとつ紹介しておきましょう。
かたつぶり そろそろ登れ 富士の山
(Little snail/inch by inch, clime/Mount Fuji!)

この一茶の句からは、実際の富士山をカタツムリが登るという、気の遠くなるような忍耐と辛抱、さらには不可能なことへの挑戦を想像しがちですが、一茶がこの句を詠んだときに実際に見ていたのは、富士山に似せて造られた「庭の築山」だったそうです。かなりゴールが近くなった気がしますね。でも、この句の解釈としてはどちらでも正解。さらに、富士山を「比喩的な存在」であるとしたり、「観念的な存在」と解釈したりしてもOK。自分の思うように解釈して構わないんですね。

「俳句とは人生であり、人生とは俳句である」とする、著者の俳句論にも頷けます。俳句には、前もっての計画も、後悔の余地も、迷っている暇もない。ピカソによる10秒間のデッサンであり、イチローのバッティングのようなもの。推敲とはすでに新しい句を作ることであり、考え直しとか書き直しはありえない・だそうです。

もともと「英語のハイク」は、「5 7 5」のシラブル数を原則としていたのに対し、日本語と英語の違いからそれでは言葉が多くなりすぎるとして、自由律のシンプルな詩を提唱する主張もされているとのこと。それでもやっぱり「英語のハイク」はピンとこないのですが・・^^;

2009/6