りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

深山に棲む声(森谷明子)

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ロシア民話「一本足のババ・ヤーガ」を下敷きにして中世日本の舞台に移植したファンタジーかと思いつつ読んでいたら、ラスト2章でひっくり返してくれました。「物語」の衣をまとった「現実」が、再び「物語」として昇華されていくのです。三浦しをんさんのむかしのはなしを思い出しました。

深山にさまよいこんだ少年が出会った、不思議な女と、彼女に閉じ込められている少年。領主に嫁がされるのを嫌がって深山に逃げ込んだ娘を助ける不思議な少年。母の染色に用いる青い実を採りに深山に入り、傷を負った女を助けた男が囚われた運命。泊めてあげた旅人夫婦の妻が産気づいた時に現れた、不思議な女の正体は?

東西南北を象徴する色のアイテムが、逃亡や隠棲を助ける物語。「朱の鏡」は火を熾し、「黒の櫛」は森となり、「青の衣」は川の流れに変わり、「白の針」は雪を舞わせる。

ネタバレを言ってしまうと、帝の隠し子を預かって戦乱の都を落ちてきた乳母が地方の深い山に身を潜め、赤い酒の力を借りて味方を作り、民話の力を借りて身を守っているうちに土着していく・・というのが基本のストーリー。ただし、作り上げた物語は一人歩きをはじめ、現実の出来事もいつしか物語となって・・というあたりが、捻っているところですね。

ただし、わかりにくすぎます。時系列がぐちゃぐちゃに記述されているのはいいけど、それぞれの物語の展開がぎこちない。本筋を隠そうとしている部分と、伏線として表に出していく部分とのバランスが悪いのかな。登場人物をもっとスッキリさせれば良かったのかもしれません。源氏物語の第二帖「かかやくひのみや」が失われた謎を大胆に推理したデビュー作、千年の黙(しじま)は、とっても小気味良かったのですが・・。

2009/3