中島京子さんの新作『かたづの!』は、「遠野の原型」ができあがるまでの物語として読むこともできる作品だったようです。今まで『遠野物語』をきちんと読んだことがなかったので、本書を読んでみました。京極さんによる現代語訳リミックス版と、オリジナルの両方が収められています。
民俗学者の柳田國男が、遠野在住の民話蒐集家であった佐々木喜善氏からの聞き語りを筆記・編纂した『遠野物語』は、1910年(明治43年)の出版です。天狗、河童、座敷童子、山姥、オシラサマなどの妖怪譚と、山人、マヨヒガ、神隠し、死者などに関する怪談を中心にして、山の女神や行事などを含む本書は、京極さんの世界に馴染んでいますね。
深い山に響く女の笑い声、暗い森で出会う怪異の者、河童の子を産む娘、座敷童子に去られて没落する家、猿の経立、自らの死を告げに現れる者たち・・。
京極さんが冒頭に書いた「遠野とは、どこから、どのくらい遠いのか」という問わず語りは、柳田さんが序に記し、リミックスでは末尾に置かれた「これを語りて、平地人を戦慄せしめよ」との咆哮と、対をなしているようです。
2015/1