りぼんの読書ノート

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修道士カドフェル3 修道士の頭巾(エリス・ピーターズ)

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シリーズ3巻めです。第1巻で中世の修道院の雰囲気と、ウェールズとの国境近くであるが故の人種的問題を描き、第2巻で12世紀のイングランド王位を争う戦闘に巻き込まれた、複雑な政治状況を描き、第3巻で主人公カドフェルの過去を描くというのは、考え抜かれた展開ですね。

もちろん歴史ミステリですので、今回も事件が起こります。自分の土地を教会に寄進して老後を保証してもらおうと考えた荘園主が、食事中に悶死。殺害に使われたのは修道士の頭巾(フード)の異名を持つトリカブト。しかもカドフェルが薬草として調合したものが悪用されてしまったようなのです。

久しぶりに帰宅して食事に同席していた、荘園主夫人の連れ子エドウィンに容疑がかかります。義父との諍いから荘園の相続を拒まれた義理の息子が、教会への正式な寄進が契約される前に義父を殺害したのではないかと疑われたのですが、調査に乗り出したカドフェルの前に姿を現わした未亡人は、なんと42年も前に共に将来を誓い合った女性だったのです。

十字軍に加わって何年も故郷に戻らないカドフェルを待ちきれなかったんですね。久々の再会に昔語りなぞもしますが、そこは修道士の身。身を持ち崩すようなことは起こりませんのでご安心を。^^

ところで、問題の荘園はウェールズにあるイングランドの飛び地でした。イングランド人の荘園主としては当然の権利であった諸々のことが、この事件の背景にあるという展開は意外でしたし、それらを大上段に振りかぶった政治的問題にしてしまうのではなく、あくまで個人の問題とするあたりは、二重に巧み。

「罪を憎んで人を憎まず」という修道士の精神と、海外を放浪した経験から近代的精神を身に着けている主人公の「カドフェル裁き」は、今回も健在です。

2009/3