りぼんの読書ノート

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修道士カドフェル8 悪魔の見習い修道士(エリス・ピーターズ)

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中世ヨーロッパでは、幼児や少年を「献身者」として修道院に預け入れる習慣があったそうです。修道院に預けられた者は、一定の見習い期間を過ぎると剃髪し、修道士となって、俗世間に戻ることができなくなる定めでした。修道院の外の世界を知らないまま、ほとんど強制的に、生涯を神に捧げる誓いを立てさせられてしまうというのは、現代的な感覚から見ると怖ろしいことであり、ラドルファス院長もカドフェルも、その点を気にしているのですが、領地分割を望まない領主の次男・三男などが修道士として育てられることも多かったようです。

本巻は、シュールズベリ修道院が4歳の幼児の「寄進」を拒むところから始まります。でも、この話は「ツカミ」ですね。本題は、「自らの意志」を強調して修道院入りを望んだ19歳の青年メリエットの物語。連夜悪夢にうなされて叫び声をあげる青年についたあだ名は「悪魔の見習い修道士」。彼の悪夢の正体のひとつは失恋であり、むしろ微笑ましいようなものだったのですが、もうひとつの原因である、彼が発見した射殺死体となるとそうはいきません。被害者は、スティーヴン王と女帝モードとの抗争を調停しようと奔走していた大聖職者の使者だったのですし・・。

ティーブンとモードのイングランド王座をめぐる争いに乗じて、北方のコンウィやリンカンの領主たちが独立を図るという愚かしい動きがあり、聖職者使者の殺害も、事件に巻きこまれたメリエットの一族の混乱も、全部関係があったんですね。国が分裂するときには、小領主たちも旗色を鮮明にすることが求められるのです。

このシリーズ、背景にあるイングランド史や、中世の風習や、修道院の実情の部分はおもしろいのですが、各巻のメインストーリーであるミステリの部分には、少々飽きてきてしまいました。全21巻もあるのですが、この後、どうしようかなぁ。

2010/2