りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

修道士カドフェル7 聖域の雀(エリス・ピーターズ)

イメージ 1

イングランド王座をめぐる女帝モードとスティーブン王の争いは小康状態。この巻は、盗難・殺人事件の真犯人を捜索するという、ミステリ要素が強い内容ですが、著者がここで紹介したかったのは、中世における修道院の「庇護権」ですね。

夜半の祈りが捧げられていた教会に飛び込んできたのは、若い旅芸人と、彼を追ってきた町の群集。旅芸人にかけられた嫌疑は、町の有力な金細工商人を殺害して金銀を盗んだというもの。金細工人の息子の結婚披露宴で余興と音楽を演じるために招かれたものの、冷たいあしらいを受けたことに対する逆恨みと思われたのです。

その若者リリウィンは修道院の庇護権のもとに匿われますが、その限度は40日間。さらに、若者を慕って差し入れを持ってきた召使いのラニルトを町まで送るために、若者がこっそり修道院を抜け出した晩に、隣家の錠前屋が殺害される事件が起こって、事態は紛糾していきます。果たして嫌疑をかけられたリリウィンは無実なのか・・。

近代的な合理精神の持ち主であるカドフェルと、州執行副長官のヒューベリンガーは、例によって心証のみに頼ることなく、推理をめぐらせ捜査を進めるのですが、やがて浮かび上がってきたのは、裕福な金細工人の家の複雑な内情でした・・。

昔も今も嫁と姑と小姑の問題の本質は変わりませんが、家計を切り盛りすることだけが期待され、女性が自ら生計を立てることができなかった中世で、この問題がこじれるとシリアスですね。簡単に「愛が全て」などと言えないのは、今も同じなのですが・・。

セヴァーン川を知りぬいていて、溺死体の流れ着く先を読みあてる船頭のマドッグは、カドフェルと同じウェールズ人でもあり、今後も登場しそうです。

2010/2