りぼんの読書ノート

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ウォールストリートの靴磨きの告白(ダグ・スタンフ)

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ウォール街の大金融会社では、専用の靴磨きを雇っているんですね。1日中オフィスを回って、トレーダーや経営者の靴磨きをするんだそうです。固定給はほとんどなく、チップ収入が生活の糧。それって、ものすごい情報量を耳にする機会がありそうです。そもそも、年に100万ドル以上荒稼ぎするトレーダーたちは、靴磨きの存在なんて気にせずに、あけすけな会話や仕事の電話をしていそうですから。本書は、そんな仕事をしているブラジルからの移民少年ギルが、ふと聞いてしまった、インサイダー取引情報を発端とした大騒動の物語。

発端は敵討ちだったのです。トイレで携帯電話を使っていた(これは厳禁だそうです)嫌味なトップ・トレーダーを目撃しただけで解雇されてしまった清掃係の友達を助けようと、靴磨きの常連だった雑誌記者に相談した所、「それだけでは弁護できないのでもっと情報を集めて欲しい」と言われ、いろいろ探ることにしたんですね。

「金持ちってヤツは全てを失うことに恐怖心があるので、それを失わずにすむのなら死に物狂いでどんなことだってやる」そうです。金と権力を使って証拠隠滅をはかるトレーダーに少年が追い詰められていくあたりは「スリラー小説」じみてくるけれど、内容はだいたいご想像の通り。ただ、結末にはそれほどカタルシス感はありません。

むしろ、ヘッジ・ファンドなどで働くトップ・トレーダーたちの奇行ぶりや変人ぶりが面白かったですね。強烈なストレスにさらされ続けているとこうなっちゃうのでしょうか。かなりの部分が実話のようです。貧しいけれど生き生きとした少年の生活とは対照的。「ファンド資本主義」が終焉を迎えようとしているのは、当然かもしれません。

著者はセレブ相手の高級雑誌の副編集長で、小説に登場する雑誌記者のモデルも本人。映画化も平行して進んでいるとのことで、雑誌記者のプロフィールは中年男性ではなく、もっと若い男性にさせられちゃったそうですよ。誰が演じるのでしょう?

2008/12