りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

忍びの国(和田竜)

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大ヒット作『のぼうの城』を読む前に、こちらの順番が回ってきてしまいました。

伊勢の北畠家を滅亡させた余勢を駆って、戦国大名不在の隣国・伊賀に攻め入った織田信雄をこてんぱんに打ち破った伊賀の忍びたちの物語。世に言う「第一次天正伊賀の乱」ですね。伊賀は早くから守護の支配を脱して、小規模な実力者たちの連合体になっていたようで、優れた忍者を傭兵として派遣することを最大の産業としていた「忍びの国」でした。

忍びの技というと人間離れした体術・戦闘術を思い浮かべますし、本書の場合もそうなのですが、その真髄は「無門の一関をこじ開ける」こと、すなわち親兄弟すら欺き相手を出し抜くという心理戦にあったようです。

伊賀の支配者層であった十二家評定衆は、織田信雄との戦いを回避しているかのごとく見せかけ、その実は傭兵としての伊賀の武名を上げるため、信雄に攻めさせようとします。しかも家臣団の中で一番の剛勇の持ち主ながら、信雄に心から臣従していない日置大膳が従軍しないであろうと読みきってという辺り、心憎いまでの策謀。その読み筋は、評定衆には思いもよらなかった理由で一旦は崩れかけるのですが・・。

主人公の下忍・無門がいいキャラです。「その腕、絶人の域」と言われながら、想い女のお国には頭が上がらず、しかも最後の最後にその理由に自ら気づくのです。幼い頃に他国から盗まれてきて、生国も名前も知らされないまま、人を騙し盗み殺すことを叩き込まれた生い立ちは、直視するにはあまりにも過酷なものであって、惚れたお国の言いなりになることだけが、まともな人間になる唯一の手がかりだったのだと。

伊賀はこの2年後に信長によって平定されることになるのですが(第二次天正伊賀の乱)、人間性を踏みにじるかのような「忍びの国」は滅びたのか、天下に散っただけなのか。エンタメ小説でのこの種の問いかけは、往々にして興を削ぐことが多いのですが、本書の場合にはツボにはまっていたように思います。

2008/12