りぼんの読書ノート

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レッド・ボイス(T・ジェファーソン・パーカー)

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ジェファーソン・パーカーの小説は、警察ミステリという表現形式を用いながら、人間関係の奥深さを描き出すことに成功している稀有な例と言えると思います。全米探偵作家クラブ賞の最優秀長篇賞を2度も受賞しているというのも頷けます。

彼の小説の舞台は、どれもカリフォルニア。陽光のあふれる明るいカリフォルニアにもある陰部を明るみに出すという点では、エルロイの『L.A.三部作』すら髣髴とさせてくれますが、救いを感じることが多いパーカーのほうが好みですね。

本書の主人公は、サン・ディエゴ市警の刑事ロビー。彼は、ホテルの6階から転落して一命を取りとめた際に「共感覚」なる、人の嘘や心理状態が見えるという特殊な能力を身に着けたのですが、事件捜査の展開上は、あまり気にする必要はありません。優秀な刑事なら、能力の有無にかかわらず、嘘は自然と見破れるものでしょうし、この能力はあくまでも「個人的な問題」と思って読み進めてもいいのでしょう。

彼が捜査するのは、元市警刑事で、現在は市倫理局の捜査官ギャレットが殺害された事件です。8ヶ月前に幼い娘を事故で失い、それに耐えられずに別居していた妻とやり直そうとしていた矢先の悲劇でしたが、ギャレットが遺していた調査記録から浮かび上がってきたのは、市や警察の上層部まで巻き込んだ高級売春組織による贈賄事件でした・・。

職業柄、敵も多く用心深い元刑事が、なぜ殺害されたのか。事件の裏にあった悲しい真実が、ロビーと妻ジーナの揺れ動く関係と二重写しになっていきます。

ビルから転落した短い時間の間に、「生きたい」と希求しながら「人生をあきらめかけた」経験がロビーに与えたものは、「共感覚」だけではなく、ものごとに執着するか、喪失に耐えるかという判断能力だったように思えてきます。

2008/9

【T・ジェファーソン・パーカーの著作】
1986/10 「ラグナ・ヒート」(訳:山本光伸)
1989/12 「流れ着いた街」(訳:染田屋茂)
1996/ 1 「パシフィック・ビート」(訳:染田屋茂)
1998/ 3 「渇き」(訳:渋谷比佐子
2002/10 「サイレント・ジョー」(訳:七搦理美子)アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞
2003/ 2 「ブラック・ウォーター」(訳:横山啓明
2003/10 「コールドロード」(訳:七搦理美子)
2004/ 2 「ブルー・アワー」(訳:渋谷比佐子
2005/10 「カリフォルニア・ガール」(訳:七搦理美子)アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞
2008/ 7 「レッド・ボイス」(訳:七搦理美子)

七搦さんの翻訳によるハヤカワ・ノヴェルズ以外の本が未読であることに気づきました。