りぼんの読書ノート

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聚楽-太閤の錬金窟(宇月原晴明)

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ルーアンからヴェネチアを経由してキタノショウへ・・。前世紀に火刑とされた聖処女ジャンヌ・ダルクに魅せられて異端となった元イエズス会修道士が操る錬金術の邪法が、生涯お市の方を慕い続けた晩年の秀吉の前にグロテスクな姿で現れます。燃えあがる火の中で滅びていくのは、ジャンヌなのか、お市なのか・・。

異端の伴天連ポステルは、実はお市の方の息子で茶々の兄であったとされる「殺生関白」秀次を取り込んで、聚楽第の地下に巨大な錬金窟を作りあげ、オカルティックな秘儀にふけるのです。その最終目的は、お市の復活なのか、聖処女ジャンヌの転生なのか、茶々の処女懐胎なのか・・。(このあたり、山田風太郎の『魔界転生』を彷彿とさせてくれますね)

異端の思想が、一向一揆のキャッチフレーズであった「厭離穢土」と重なるあたりが面白い。現世を造ったのが神ではなく穢れた存在であって、聖なるものも貶められてしまう世界であるなら、確かに「死」以外の救いはありません。秀吉が秀次の妻妾までも皆殺しにした理由や、家康が(実は生前の秀吉に頼まれて!)豊臣家を滅ぼした理由などは、荒唐無稽だけれど、こういう背景であるなら筋は通ってきます。

信長とお市を介しての秀吉と家康の意外な関係や、蜂須賀党や服部党の忍びの跳梁、異端の邪法に対するイエズス会異端審問組織「神の鉄槌」の息詰まる戦いなどを交えて、スケールの大きな伝奇小説に仕上がっています。私の好みからすると、かなりグロく、オカルティックに過ぎるのですが・・。

2008/8