りぼんの読書ノート

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当マイクロフォン(三田完)

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俳風三麗花で昨年の直木賞候補となった三田さんの手による、昭和を生きた破天荒な実在のアナウンサー、中西龍の一代記です。昭和28年にNHKに入局し、若い頃から仕事の鬼となってラジオ界屈指の語り手となった人物ですが、その一方で遊郭に入り浸ったり、自堕落な女性遍歴を重ねたり、結婚した後も妻に手をあげることもしばしばだったとか。

タイトルとなった『当マイクロフォン』というのは、NNKラジオで15年間放送されていた「にっぽんのメロディー」の中で、中西さんが使っていた一人称だそうです。フリーになってからの代表作に、「鬼平犯科帳」のナレーションや、浅田飴のテレビCMなどがあるといいますから、その独特な語り口調には間違いなく聞き覚えがあります。

著者の三田さんはNHK出身ということもあってか、伝説のアナウンサーの生き方にずいぶんと好意的なようです。女性遍歴は「芸の肥やし」として許容する感じですね。確かに彼と直接に接した人は皆、中西さんとの思い出を嬉しそうに語ったといいますから、アナウンサーの露出が増えた現代では失われてしまったものを体現していた人物なのでしょう。

若い頃に、地方の高校野球中継で試合展開そっちのけで延々と選手の人柄やエピソードを紹介し、「そうこう申しているうちに、○○高は早くもふたり目のバッターの打順」などとやってのけた常識外れの伝説なんて、今ではもう生まれようもありませんね。

ただ、個人的にはこんな人物には引っかかりたくはありません。こういう人物像が、職人的な「日本人の美意識」とセットになっている生き方であるとするならば、そんなものは失われてもいいとさえ思ってしまいます(笑)。

2008/8