友人の趣味に付き合わされて、素人落語を聴きにいった独身OLの吉田江利、33歳。大学の落研出身の素人落語家が指導する、カルチャーセンターの落語教室に参加するハメになってしまいます。
ところが、彼女は落語にハマッてしまうのです。「ギャグ? このわたしが、ギャグをやる? やれるのか。人を笑わせられるのか。オヤジギャグで人をうんざりさせる上司とは違う、ちゃんとした笑いをとれるのか」と自問しながらも素人落語に挑戦するうちに、落語が描く「深くて温かい人間の物語」にどっぷりとハマッてしまうのです。
どなたかが言ってましたけど、これは小説というよりも、著者の落語論なのでしょう。志ん生、志ん朝、小三治、枝雀ら名人のCDを聞き比べて、それぞれの特徴や個性を語り、さらに落語の主人公たちの心情に深く共感してしまう。
落語の世界を通して世間を見ることによって、悲しいできごとも厳しい現実のことも笑い飛ばすことだってできるのかもしれない・・という視点を知ることができた江利は、何かに一歩近づいたようです。「人生の達人」などと言ってしまうと大げさですが・・。
落語を題材にした小説といえば、最近では佐藤多佳子の『しゃべれどもしゃべれども』を読みましたが、小説の形を借りて古典芸能の解釈に踏み込んだ本ということでは、三浦しをんの『仏果を得ず』の方が近いかもしれません。
2008/5