りぼんの読書ノート

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竜馬がゆく(司馬遼太郎)

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ほとんど世間から忘れられていた坂本竜馬という存在を、「日本人が尊敬する人物」で不動の第一位の座に押し上げることとなった「伝説の本」です。5日間で文庫8冊を再読しました。

確かに本書で描かれる竜馬は、めちゃくちゃ魅力的な人物です。あまたの志士たちが尊皇攘夷と駆け回る中で、ただひとり経済活動の重要性に目を向け、国中が「幕府vs藩」の呪縛に縛られていた時代に、いち早く「日本国家」の意識を持ち、倒幕運動の渦中で無血革命の構想を持ち、さらには民主主義や議会主義を視野に入れた「新国家構想」を提案するという、先見の明を持った人物。

生涯少年のような無邪気さを失わず、天真爛漫で、西郷や桂など維新の大立者だけでなく、幕臣の勝や大久保にも愛され、尊敬されていた人物。少年時代は落ちこぼれで、近所の人からは「寝小便たれ(よばいったれ)」と馬鹿にされていながら、好きな剣の道で免許皆伝となり、ついにはこれだけのことを成し遂げるに至った「劣等生の星」としてあこがれられる人物。

本書の描く人物像が実際の竜馬とはかけ離れているのではないかとの指摘もありますが、確かに魅力的な人物でなくては、決定的な時期に薩長同盟を斡旋して保証人となったり、大政奉還という大技を仕掛けたりすることはできなかったに違いありません。

ただ、女性から見るとどうだったのでしょう。本書では、土佐藩での主筋に当たり後に三条家の老女となったお田鶴さまや、千葉道場で「鬼小町」として美貌と剣の腕前で知られたさな子など、男勝りで賢くて、自立している女性たちから惚れられたように描かれています。母性本能をくすぐられたのかも。

でも実際に結婚したのは、勝気なだけで竜馬の事業には全く興味を持たず、足を引っ張るだけの存在だったおりょうです。司馬さんも彼女のことは書きにくかったようで、「おりょうの価値は竜馬にだけ理解できるものであった」なんて表現も使っています。人物を見る眼はあったものの、女性を見る眼はなかったのかもしれません。

ともあれ、本書が定着させた「坂本竜馬像」を覆す必要はないでしょうし、そんなことは全国民が許さないでしょう(笑)。ペリー来航(1853年)からわずか15年の間で明治維新が成し遂げられた「幕末史」を学ぶテキストとしても広く読まれている本です。完全に「司馬史観」ですが・・。

2008/5