りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ニューヨーク・チルドレン(クレア・メスード)

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30歳を迎えて、まだ危うい暮らしをしている3人のニューヨーカーが、これまでの生き方を見直さざるを得ない現実に遭遇して、とまどいます。TV番組のディレクターをしているダニエール。著名なジャーナリスト・マレーの娘で、セレブ美女のマリーナ。2人の女性の学生時代からの親友で、ゲイのジュリアス。

3人のバランスは局外者の登場で崩れていきます。ひとりは、ニューヨークで革命的な雑誌を創刊しようとしている野心家のシーリー。マリーナの父のような著名人に敵愾心を燃やし、安っぽい自尊心を教養で武装した、相当に嫌味な男ですが、マリーナを心酔させてしまいます。もうひとりは、田舎から大学を中退してNYに出てきたマリーナの従兄弟のブーティ。内気な性格のオチコボレなのですが、世間をアッと言わせたい気持ちだけは強く、叔父であるマレーの秘書として雇ってもらいながら、未発表原稿を入手して叔父批判を公表しようとします。ブーティはシーリーの裏返しのような存在ですね。

ダニエールのキャリアへの不安や不倫、ジュリアスの破滅的な恋愛などもイタイけど、3人のなかで一番情けないのはマリーナかな。つまらない仕事をする気は全然なく、「いつか発表する本」をずっと書き続け、父を尊敬しているのに、シーリーに惚れてしまうと彼の意見に染まってしまう・・。どこにでもいそうなキャラですが。

でも、作者の視点は甘くはありません。NYの街だって、自分を特別だと思っている野心家たちが簡単に成功してしまえるほど、甘いものではありません。浮かれあがったニューヨーカーたちの頭を一気に冷やした「9.11」で、彼らの野望や自惚れは霧散してしまいます。

3人の「その後」も気になりますね。唯一まともなキャリアウーマンであるダニエールには、立ち直って欲しいのですが・・。直前に読んだメタボラ(桐野夏生)で描かれている底辺社会と比べてしまうと「大甘の世界」だけど、まぁ、登場人物の皆さんたちの活動的なこと。NYの街も、きっとそうなのでしょう。

2008/5