りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2008/4 メタボラ(桐野夏生)

本屋大賞を受賞した伊坂さんの『ゴールデン・スランバー』を、ようやく読めました。皆さんの評価も高かったので期待していたのですが、期待しすぎるとよくないですね。かえって「物足りなさ」を感じてしまいました。

今月の上位にあげた3冊には、フィクションとノンフィクションが混じっていますが、どれも「現実」を厳しく切り取った作品だと思います。

1.メタボラ (桐野夏生)
気がついたら沖縄のジャングルにいた記憶喪失の若者が、ゼロからの出発をはかります。実は彼はネット集団自殺の脱落者であり、記憶の底に沈んでいたのは、家族崩壊の過去と、絶望的な派遣労働の日々。「新陳代謝」の意味を持つ「メタボラ」というタイトル通り、彼は、新しい自分自身を手に入れて、新しい生活をはじめることができるのでしょうか。沖縄という舞台の開放的な明るさが、格差社会の底辺に落ちることの暗さを際立たせます。

2.廃墟の上でダンス (ミラーナ・テルローヴァ)
10代から20代にかけての10年間を、ほとんど戦争の中で過ごしながら生き抜いて、パリ留学を果たしたチェチェンの少女の物語。悲惨な戦争の中でも、学ぶ喜びを感じつつ成長していく少女の想いがみずみずしい自伝です。彼女は現在、ジャーナリストになってチェチェンの現状を世界に伝えるために奮闘しています。孤立という絶望が新たなテロを生み出すことのないように・・。

3.天使の記憶 (ナンシー ヒューストン)
1957年のパリを舞台にした三角関係は、ヨーロッパの受難を体現したもののようです。ナチの協力者だった父とロシア兵に陵辱されて自殺した母を両親に持つ、ドイツ娘サフィー。ハンガリー動乱を逃れてきた亡命ユダヤ人で、アルジェリア独立運動のシンパである、アンドラーシュ。妻サフィーの不倫に気づかないフランス人音楽家のラファエル。恋によって燃え上がった心が、それまで隠されていた互いの本当の姿を現していきます。

4.ナインスゲート (アルトゥーロ・ペレス・レベルテ)
スペインの稀覯本狩猟家コルソが依頼されたのは、デュマの『三銃士』肉筆原稿の調査と、悪魔が書いた本の模写といわれる奇書『九つの扉』の真贋鑑定。コルソが訪れた先に、三銃士に登場する悪役そっくりの不審者が現れて、次々と古書の所有者が殺されていく! ウンベルト・エーコの『フーコーの振り子』を髣髴とさせてくれる、格調高いミステリー。

5.スペース・マシン (クリストファー・プリースト)
19世紀末のイギリスで、天才科学者の発明したタイムマシンに乗ってしまった男女がいきついた先は火星であり、タコ型の火星人たちは地球侵略をたくらんでいる最中でした。時間と空間の移動を分離するタイムマシンは、実はスペースマシンでもあったのです。ウィットに溢れた、ウェルズの傑作古典SF『タイムマシン』と『宇宙戦争』に捧げられた一冊です。



2008/4/30