りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2008/2 ベルリン転換期3部作(クラウス・コルドン)

2月の1位は、文句なしに宮部さんの『楽園』と思っていましたが、一気読みしてしまったクラウス・コルドンの『ベルリン転換期3部作』の迫力を買いましょう。

一方で「とんでも科学理論」に立脚(?)する作品が2冊、印象に残りました。「量子論唯名論」ともいうべき「思考=言葉=記号」が具象化された世界で、他者の心を伝って過去に遡る『Y氏の終わり』と、「唯心論的量子論」ともいうべき世界で怪獣災害を防ぐ「気象庁特異生物対策部(キトクタイ)」の活躍が、この世界での「ウルトラマン」を生み出したという『MM9』。どちらも楽しく読みました。
1.ベルリン転換期3部作(クラウス・コルドン)ベルリン1919 ベルリン1933 ベルリン1945
1919年のドイツ革命から、1933年のナチスによる政権掌握を経て、1945年のドイツ敗戦まで、大激動のただなかにあった20世紀前半のドイツを、ベルリンに生きる労働者の家族を中心にして、見事に描き出してくれました。国家と人民は必ずしも同一のものではないとの主張も明快です。各巻で主人公を務めた少年少女たち(長男のヘレ、次男のハンス、ヘレの長女エンネ)のみずみずしい感性は、暗い時代でも輝いています。

2.楽園 (宮部みゆき)
模倣犯』から9年、落ち込んでいたライターの前畑滋子を立ち直らせたのは、交通事故で亡くなった少年が描いた不思議な絵。犯罪の存在を予測していたかのような絵の謎を調査する滋子が見出したのは、別のおぞましい犯罪でした。母たちの思いが交差する中、リアリティを失わずに全てのプロットを収斂させていく展開は、まさに超絶技巧!

3.コルシア書店の仲間たち (須賀敦子)
須賀さんがミラノのコルシア書店でめぐり合った、理想に燃えた個性的な仲間たち。この書店で出会った夫を亡くし、互いが理想とするところの微妙な違いが書店を解体させてしまった後でも、そこは大切な場所。「挫折と別離」だって、「情熱と出会い」と同じ価値を持っている、素晴らしいことなのですから・・。澄み切った視点で書かれた一冊です。

4.Y氏の終わり (スカーレット・トマス)
偶然手にした稀書に記されていた、他人の心に入り込む方法を試したアリエルは、不思議な世界に入り込んでいきます。そこでは具象化された思考をたどって他者の心に入り込むだけでなく、過去に遡ることも可能だったのです。「敵」から身を守るべく、過去を「修正」しようとする彼女の行き着く先は?

5.MM9 (山本弘)
まるで地震や台風のように、定期的に怪獣災害に襲われる日本では、気象庁に特別対策隊が設置されて、日夜、人々を守るために戦っていたのです・・。最後に明らかになるのは、本書の世界と、私たちの世界との意外な関係!「ウルトラマン」に捧げられた、ステキなオマージュ作品でした。





2008/2/28