りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

タカラジェンヌの太平洋戦争(玉岡かおる)

イメージ 1

神戸に生まれ育ち、幼い頃からの熱烈な宝塚ファンであり、「神戸の女性」を主人公に小説を書き続けている玉岡さんが、戦争前後の宝塚を取材して纏め上げた新書です。

まずは歴史を追いましょう。阪急電鉄の総帥・小林一三が、阪急沿線に開発した宝塚新温泉の余興のひとつとして、1914年に少女歌劇団による演目を上演させたのが歌劇団の始まり。最初は学芸会レベルといわれながらも、養成所(後の音楽学校)との一体運営で水準も上がり、低料金での大衆化路線も成功して、いちやく人気を博するようになりました。1924年には宝塚に、1934年には東京に専用の大劇場を有するに至り、多くのスターを輩出して海外公演も果たすに至った歌劇団。でもそのとき既に、暗い影が忍び寄っていたのです。

早くも1930年代には戦時体制に組み込まれ、日本軍に協力する男装の女スパイや(これは宝塚にぴったりですが)、健気に銃後を守る女性を主人公とした戦争協力作品が中心になっていくんですね。そして、ついに1944年には両劇場とも閉鎖となり、団員も散り散りに・・。

昭和18年に入学して一度もステージに立たないうちに劇場を失ってしまった「悲劇の第33期生」をはじめ、数多くの当事者や故人の遺族を尋ねて得られた、聞き書きや資料には、臨場感があふれます。1946年にいち早く復活した公演のため、「カヘレルナラカヘレ」の電報を受けて各地から集まってくる団員たちの喜びは、時代を超えて読者にも伝わってきますね。

最後に玉岡さんは、「宝塚の戦争責任」という重いテーマに踏み込みます。「銃後で懸命に生きようという戦争の裏舞台でのけなげな働きを鼓舞した」にすぎず、「むしろ戦争の被害者としてひたすら耐えてきた」と結論付けますが、そのあたりは議論もありそうです。少なくとも「利用された」部分はあったわけですし・・。

2008/2