最近、『君のためなら千回でも』と改題されて文庫化されました。オリジナルタイトルのほうがずっといいのに、こんな純愛ものみたいな書名にして・・とがっかりなのですが、内容の素晴らしさを損なうものではありませんよね。
アフガニスタンの裕福な家に育ったアムールは、兄弟同然に育った召使の息子ハッサンに複雑な感情を抱いています。本当は大切な友人なのに、人々から蔑まれているハザラ人(アジア系でシーア派)で、貧しく教養もなく顔も醜いハッサンに対して、素直に友情を告げられません。ハッサンはアムールを大切に思っているのに・・。
12歳の冬の凧合戦の日、アムールの人生は暗転します。苛めっ子に虐げられるハッサンを見ながら、臆病心に負けて見ない振りをしてしまう。そえどころか、罪悪感に苛まれて、彼にいっそうひどい仕打ちをしてしまうのです。直後に始まったソ連軍の進駐を逃れて、父親とともにアメリカに亡命することとなったアムールは、ハッサンに償いをする機会もないまま、罪悪感から自由になれません。そんな彼に「もう一度やり直す道がある」と告げたのは、26年後にパキスタンからかかってきた1本の電話。
2001年の夏、アムールは意を決してタリバーン支配下のカブールに戻るのですが、彼が見出したものは、変わり果てた街に、旧友の悲しい運命に、思いがけない人物。さらには、少年時代からずっと尊敬しながらもコンプレックスを抱いていた、誇り高くて勇気もあり、優しさも兼ね備えていた亡き父親の、意外な真実でした。
勇壮な凧合戦や、落ちてきた凧を追って手に入れる事が子供たちの楽しみだった頃の、当時はまだ世界中の誰も気に留めていなかった、平和なアフガニスタンの変容ぶりが、アムールの心の軌跡と重なり合います。そこもまた、貧しくて差別されていた人々にとっては、決して天国ではなかったのですけれど・・。
2008/2