りぼんの読書ノート

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ベルリン1945(クラウス・コルドン)

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ベルリンの下町に住む、普通の労働者の家族であるゲープハルト一家を主人公として、20世紀初頭の激動期を描く『ベルリン三部作』の最後は、ドイツ敗戦の年。

本書の主人公は、ナチスが権力を掌握した1933年にゲシュタポによって逮捕されたヘレとユッタの娘であるエンネ。あの時は生まれたばかりの赤ちゃんだったエンネも、もう12歳の少女になりました。ナチスに支配され、戦争に突き進んだ12年間・・。

主人公たちは、この12年間をどのように生きてきたのでしょうか。そもそも、この時代を生き延びることができたのでしょうか。前2巻で馴染みになったゲープハルト一家のひとりひとりの消息は、とっても気がかりだったのですが、ここでネタバレ的なことに触れるのは控えておきましょう。

空襲にさらされるベルリンで、皆が限界などもうとっくに過ぎた毎日を送っている中、ついに戦争が終わります。でも、ナチスに代わってベルリンの主人となったソ連軍は、決して救いの神ではありません。

物語は、敗戦後の混乱した世相を描いていきます。兵士に強姦された女性たち。廃墟で暮らす親のいない子供たち。戦争未亡人となった女性が選ぶことができた道。新しい権力者に取り入ろうとする元ナチスの信奉者・・。

そんな中で、12歳のエンネの気持ちが生き生きと伝わってきます。家族に対して揺れ動く心情とか、今まで学んだことが覆ってしまうことへの戸惑いとか、気持ちがすれ違ってしまった親友への想いとか・・ここに描かれているのは確かに、この時代にあっても溌剌さを失わない少女であるのが、本書の救い。

このあとも、東西分裂、ベルリン封鎖ベルリンの壁と、苦しい時代が続くことになり、エピローグに記された、家族の「その後」を見ても決して平坦な道ではないのですが、健全な気持ちをもった働く者たちに対して、挫けないで欲しいとの作者の気持ちが痛いほど伝わってきます。

最後に、ゲープハルト家の人々を紹介しておきましょう。
ルディ・ゲープハルト :元ドイツ共産党員、第一次大戦に従軍
マリー・ゲープハルト :ルディの妻、ドイツ共産党員  

ヘルムート・ゲープハルト :ルディとマリーの長男(愛称ヘレ)、1919年の主人公
ユッタ・ゲープハルト :ヘレの妻、エンネの母
エンネ・ゲープハルト :ヘレとユッタの娘、1945年の主人公

ハンス・ゲープハルト :ルディとマリーの次男、1933年の主人公
ミーツェ :ハンスの恋人。ドイツ人とユダヤ人のハーフ

マルタ・ブレーム :ルディとマリーの長女、旧姓ゲープハルト
ギュンター・ブレーム :マルタの夫、ナチス党員
ハインツ・ゲープハルト :ルディとマリーの3男(愛称ムルケル)


2008/2