『ベルリン1919』に続く「ベルリン三部作」の第2作は、ナチスの権力奪取前夜の暗雲がドイツを覆っていくかのような暗い時代の物語。前作では13歳の少年だった、ゲープハルト家の長男・ヘレはすでに27歳。機械工となって結婚もし、筋金入りの闘士に成長していますが、大不況の中で失業中。この本では、15歳になったヘレの弟・ハンスが、主人公を務めます。
工場の倉庫係として働き始めたハンスですが、早くも職場内の政治的対立に巻き込まれてしまいます。社会民主党支持の職長は、誠実で信頼できる男性なのですが、やっぱり、という感じで、ナチの突撃隊もいるんですね。共産党にこそ入っていないものの、左翼的な立場にいるハンスは、眼の敵にされてしまいます。
ゲープハルト家の中でも、不協和音が起こります。貧困から抜け出したいとの上昇志向が強い長女マルタの彼氏がナチスに入党。家族とも、彼ともうまくやっていきたいと願うマルタは、ヒットラーの唱える奇麗事を信じるようになっていくんですね。その気持ちはわかるのですが・・。
でも、明るい話もあるんです。ヘレとユッタの夫婦には赤ちゃんが生まれます。ハンスも、職場で知り合った可愛くて勇気のあるミーツェとつきあい始めます。ユダヤ人の血を引いているミーツェを待っている運命など想像したくもないのですが・・。
読者は、ハンスを通じて、ナチスがドイツを席巻していく時代の空気をひしひしと感じていきます。ナチスの台頭を前にして、互いに非難を続ける社会民主党と共産党。さらには、スターリンが国際共産主義運動に投げかける暗い影までも・・。
本書は、1933年の2月に起きた国会焼き討ち事件の直後、ナチスが「報復」と称して共産主義者、社会主義者、民主主義者たちを弾圧する場面で終わります。ハンスとミーツェが深夜に掲げた赤旗は、まだあきらめてはいない者の抵抗の証であり、希望を繋ぐものと思いたいのですが、その後のドイツがたどった歴史を知る者としては、楽観的な予想など持ちえません。
このシリーズ、ゆっくり読むつもりでしたが、次巻の展開が気になります。『ベルリン1945』も、すぐに読みたくなってしまいました。
2008/2