りぼんの読書ノート

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最後の陪審員(ジョン・グリシャム)

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リーガル・ミステリーの第一人者であるグリシャムさんの新作ですが、初期の代表作の『法律事務所』や『ペリカン文書』などのサスペンス路線を期待すると当てが外れます。むしろ、味わいは自伝的名作である『ペインテッド・ハウス』に近いかもしれません。

1970年、まだ人種差別意識も色濃く残るミシシッピー州の田舎町で、殺人事件が発生。まだ若い未亡人が、幼子2人の前でレイプされて惨殺されてしまうというショッキングな事件でしたが、事件そのものは至って単純で、犯人はほとんど現行犯に近い状態で逮捕されます。

問題はその後。犯人である地元マフィア一族の青年に対して、陪審員は死刑を宣告することができなかったのです。買収や脅迫があったのか、南部人の深い信仰が死刑宣告をためらわせてしまったのか理由は明らかにされませんが、9年後、終身刑を勤めていた犯人が刑期短縮で出所すると、当時、死刑に反対票を投じた陪審員が次々と殺害されていくという、新たな凶悪事件が町を襲うのです・・。

本書の主人公は弁護士ではなく、偶然にローカル新聞を買収したばかりの若き新聞社主。嫌がらせや脅迫にビビりながらも、できる限りリベラルな報道を続けようとする姿勢と、息子や娘たちに立派な教育を授けた、素晴らしい黒人の母親との深い友情が、主人公を成長させていきます。「新人の成長ストーリー」というのも、グリシャムさんの好きなテーマですね。^^

陪審員連続殺害事件の解決そのものより、10年間に渡って綴られる、アメリカ南部の田舎町の1970年代に対するノスタルジーのほうが、深く印象に残りました。公民権運動やベトナム戦争で揺れ動いた時代であったことは当然ですが、ショッピングセンターの進出による地方都市の空洞化や、地方で独立している新聞の衰退なども、この時代の出来事だったのですね。

2008/2