りぼんの読書ノート

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桐畑家の縁談(中島京子)

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ずっと苛められっ子で地味で目立たなかった妹の佳子が、突然結婚を決めたことで、姉の霧子は動揺してしまいます。

妹と違ってずっと可愛い女性でいて、男性からも適当にもてていて、今でも医者と交際している霧子ですが、ただいま現在は微妙な位置にいるのです。結婚には踏み切れず、会社もやめてしまっていて、妹のアパートに居候中。「8時以降の飲食はダメ」という女性誌の見出しを隠して夜食に手を出すという下りが全てを物語っています(笑)。

ところで妹の結婚相手は、ウー・ミンゾンという台湾からの留学生。中華料理屋でバイトしていて、英語も日本語も中途半端な男性と結婚すると言われると、親ならずとも心配になってしまいますが、彼は一日に何度も「アイシテイル」と言ってくれる優しい男性なんです。考えてみれば、日本人同士でも夫婦間の会話が成り立っていないケースだってあるし、各国語チャンポンのたどたどしい会話だって、それよりは遥かにマシ。言葉の問題は、思うほど障害にはならないのかもしれません。

この結婚話には、両親も振り回されます。内心では反対しながらも、娘に直接それを言えずに、質問状を書くお父さんのズレぶりは失笑ものですが、そういうことも含めて、日本の家族関係って悪くないものかもしれない。中島さんの淡々とした筆致にかかると、そうも思ってしまいます。

ちょっととぼけた感じの、姉妹の大伯父さんがいい味出してました。虎屋の懐中汁粉を持って風邪見舞いに行ったら、「十条のあばら家にて汁粉食う」というわびしげな礼状が返ってきたり、友達と遊びにいったハワイから年賀状を出した時には「常夏の国もあるか。おじさんのストーブが昨日から壊れています」と返事が来る辺り、なかなか真似のできないシニカルさ。^^

ところで、本書の各章には「コンポート、甘藷・馬鈴薯白身魚のポモドーロソース、中華丼、米の雨(ライスシャワー)」などというタイトルがついていました。先日読んだ『ベーコン(井上荒野)』ほど、食べ物を主役にした内容ではありませんが、この縁談にまつわるエピソードも、食べ物の味や香りと一緒に記憶に残るんだろうな。

2008/2