りぼんの読書ノート

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ブラックベリーワイン(ジョアン・ハリス)

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少年時代の思い出を描いた小説で華々しくデビューした作家ジェイは、その後はしがないSF小説しか書けず、14年もの長いスランプに陥っています。そんなジェイの気持ちを動かしたのは、少年時代に出会った老人ジョーが遺した、古びたワインの味でした。衝動的に南仏の村に移り住んだジェイが出会ったのは、ジョーの亡霊。かつての小説の中で、少年時代を美しく描きすぎていたと自覚しているジェイは、当時の出来事を鮮やかに思い出していきます。

花と植物を愛したジョーのことは好きだったけど、世界中を旅したというジョーの言葉を信じてはいなかったこと。ジプシーの少女との楽しい冒険と、あっけない別れ。苛めっ子たちにこっぴどく痛めつけられて負け犬根性が染み付いてしまったこと。そして、ジョーと2度と会えなくなってしまった日のこと。

ジェイに再び小説を書かせたのは、少年時代の思い出だけではありません。南仏の村人たちとの人間らしいつきあいもまた、ジェイの再生に大きな役割を果たします。そして実は、この村は『ショコラ』の舞台となった「ランスクネ」だったのです。

ヴィアンヌはもう村を出て行ってしまった後だけど、やはり彼女は村を変えていました。ジョゼフィーヌは美しく逞しくなり、夫が逃げ去った後のカフェを一人で切り盛りして、村の中心になっていました。ジプシーのルーは村に住み着き、色々な仕事をしています。でも、カロリーヌは相変わらず俗物のままで、工務店を経営している夫と一緒になって、ジェイを利用して村の観光開発をたくらんじゃうんですね。

ジェイの心を惹きつけたのは、誰にも心を開かない、謎めいた女性マリーズでした。地下室でくすくす笑っているジョーの遺したワインは、ジェイとマリーズに奇跡をもたらしてくれるのでしょうか。ジェイの小説は完成するのでしょうか。そしてランスクネの村は、開発を免れるのでしょうか・・。

ランスクネの村と住民たちは以前と同様に魅力的だけど、ほろ苦くて甘い不思議な感じは、少々影を潜めてしまった感じ。『ショコラ』との差は、主人公であるヴィアンヌとジェイの魅力の差かもしれません。

2008/2