りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

楽園(宮部みゆき)

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「次作への期待度×期待者数」という統計を取ったら、現在のNo.1は宮部さんでしょうか。この作品も、出版されてから半年近く待たされました。とにかく予約人数が半端じゃない! でも、待った甲斐がありました。伏線が全部、最後に効いてくる展開はお見事です。

しかも主人公は『模倣犯』の前畑滋子。最近とみに鋭く追及しているテーマである人の心に潜む闇を描き出し、初期の作品で得意としていた超能力なんかも絡めてしまい、なおかつリアリティを失わないという超絶技巧!

模倣犯」事件から9年後、フリーライターの前畑滋子は、未だにトラウマから立ち直れていません。そんな彼女に持ち込まれた変わった依頼。亡くなった12歳の息子のスケッチブックに、息子の生前にはまだ明るみになっていなかった犯罪を描いたかのような絵があるというのです。

非行に走った娘を殺害した両親が遺体を自宅に埋めて、16年もの長い間隠匿していたとのその事件を、少年が知っていた可能性はあったのか。息子を悼む母親の情にほだされて調査を開始する滋子の前に現れてきたのは、娘の死の真相に加えて、未だに終わっていない別のおぞましい犯罪の存在でした・・。

調査を開始して腑に落ちない点を追求していくうちに、段々とパワーを回復してくる滋子と一緒に、物語もパワーアップしていきます。終盤で、息子を亡くした母親の思いが一気にほとばしり出る場面や、娘を殺めるに至った真相を語りはじめる別の母親との対決の場面は、既に深夜だったにもかかわらず、もう一気読みで、翌日寝不足。

この本は、一番おぞましい犯罪者の母親を含めて、3人の母親の物語なのでしょう。『楽園』とのタイトルを意味づける、「人々が求める楽園は常にあらかじめ失われているのだ。それでも人は幸せを求め・・あるとき必ず己の楽園を見出すのだ。たとえ、ほんのひとときであろうとも」との最後の文章は、本書の纏めとしてピッタリするものでした。

母親はもう一人いましたね。被害者になりかけた少女を抱きしめて、危ういところで「もうひとりの茜(16年前に両親に殺められた娘)」となる所から救い上げた母親も・・。

2008/2