りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

「エンタメ」の夜明け(馬場康夫)

「ディズニーランドが日本に来た!」との副題がついています。三菱グループの「富士山麓案」と、三井グループの「浦安埋立地案」のどちらが勝ったのかは誰でも知っていることですが、そもそもディズニーがはじめてのアメリカ国外での立地を日本としたことには、どのような背景があったのでしょう。

 

本書のクライマックスは、1974年12月にウォルト・ディズニー社経営陣に対して三井グループが行った「史上最大のプレゼン」です。著者は、その背景に戦後日本のエンターテインメント発展の歴史があったとの論旨で本書を纏めています。ラジオ、映画、公演、イベント、スポーツ、テレビと発展してきた日本のエンタメ界を率いてきたのは先見の明を有したプロデューサーたちであり、さらにはスポンサーにCMの効果を認識させた努力の積み重ねも大きかったようです。

 

毎日新聞社電通を行き来しながら、数々のイベントを手掛けた小谷正一。大阪万博で小谷の右腕として活躍し、後にディズニーに対する見事なプレゼンをやってのけた堀貞一郎。著者はこの2人を軸として、三木鶏郎前田武彦、岡田芳郎、山川浩二和田誠、藤田潔など、エンタメ草創期の核となった人物たちのエピソードを綴っていきますが、今の時代にはそぐわない雰囲気ですね。コンプライアンスなどという言葉もなかった時代であることは承知していますが、この時代の成功体験が2020東京五輪の大不祥事に結びついていると思えてしまいます。

 

また東京ディズニーランドについても、三井不動産が実質的に手を引いたあと、千葉県、浦安市、そして市民たちの協力を得たオリエンタルランド社長・高橋政知氏の苦闘のほうを読みたかったのですが・・。当初の最寄り駅であった東西線浦安駅とディズニーランドを直線で結ぶ大三角線道路や、全ての保育所から道路を渡らずに公園に行けるという浦安の街づくりは、「カリフォルニア州浦安市になりたい」とまで言っていた浦安市民たちがアナハイム市から学んだことなのですし。

 

2023/9