りぼんの読書ノート

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ゴジラS.P(円城塔)

TVアニメシリーズ「ゴジラ シンギュラポイント」の小説版ですが、内容はどこまで一致しているのでしょう。本書の内容はかなり難解なのです。

 

2030年、千葉県逃尾市に突然飛来した未確認飛行生物は、当地の町工場で製造されていた銀色のロボット「ジェットジャガー」と交戦の末に突然死。その後大量に襲来し続ける「ラドン」と名付けられた怪鳥群の目的は、謎の紅塵を大量に撒き散らすだけのようです。実はその紅塵は一般の物理法則に従わず、時間方向への反応性を有する超物質アーキタイプでした。あるいは東京湾が宇宙的な異世界うしの衝突点となり、銀河を破滅に導くことになるのでしょうか。やがて逃尾市の深地下に眠る巨大な骨から発せられる音声電波と、撒き散らせれたアーキタイプに引き寄せられるかのように、瞬く間に進化を続ける怪獣「ゴジラ」が現れるのでした。

 

アニメ版ではおそらく、ジェットジャガーを生み出した町工場のおやっさん大滝や、そこの従業員でジェットジャガーに乗り込むユンや、幻想生物学を研究する友人のメイや、逃尾の深地下に眠る骨を管理するミサキオクの職員たちや、新インド奥地の超深度立坑シヴァの研究者たちの動向や活躍を描いていくのでしょう。しかし本書においてゴジラアーキタイプに対抗する主役は、分散統合型のAIであって、それほどドラマチックな展開にはなっていきません。いつの間にか始まった異世界間の衝突は、東京をはじめとする世界各地に壊滅的な打撃を与えるものの、大混乱の中で突然に終息してしまうのです。まるでゴジラが敗れるはずのない未来が、ゴジラが敗北するエピソードに接続されたかのように。明快な説明を意図的に拒否した小説のようでう。

 

2023/9