りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

過ぎ去りし世界(デニス・ルヘイン)

アイルランド系のコグリン家3部作の完結篇にあたりますが、単独でも楽しめるノワール小説です。第1作『運命の日』は長男ダニーを主人公とする、第1次大戦後のボストンが舞台の警官小説。第2作『夜に生きる』の主人公は3男ダニーが禁酒法時代のギャングとして試練を乗り越えていくクライム・ノワール。そして本書は裏社会のトップまで上り詰めたものの抗争で妻を失い一線を引いたジョーが、フロリダで再びギャングの抗争に巻き込まれていく物語。

 

1942年。ジョーはフロリダ州タンパで一人息子トマスを育てながら実業家として生きていますが、まだ裏社会とは完全に切れてはいません。兄弟同様に暮らしてきた幼馴染のディオンが率いるバルトロ一家にはまだ隠然たる力を有しているのです。そんなある日、自分の命を狙う者がいるとの噂を耳にしたジョーは、真相を明らかにするためにふたたび裏の世界に身を投じていくのですが・・。

 

第2次世界大戦への参戦によって、アメリカにおけるギャングの立ち位置は変化していました。かつてはパブリックエネミーでしかなかったものの、軍事や物流への貢献によって当局の締め付けも緩くなっていたようです。穏健派であるジョーはギャングのみならず、国家にも利益をもたらしているというのに、いったい誰が何のためにジョーを狙っているのでしょう。実は真の標的はジョーではなかったのですが・・。

 

本書は前近代的なギャングたちに捧げた挽歌なのでしょう。「おれたちは何になったんだ」とつぶやく親友のディオンに対して、「もっと大きなものの一部だ」と答えたジョーは、自分が矛盾に満ちた存在となっていることに気付いていたのです。ジョーだけに見えていた幻の少年の正体も象徴的でした。犯罪小説に新風を吹き込んだ著者の集大成ともいえる作品です。

 

2023/9