りぼんの読書ノート

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モナドの領域(筒井康隆)

2015年に81歳であった著者が「おそらくは最後の長編」として著した作品です。テーマはずばり「神」。神は存在するのか。なぜ同一の唯一神をいただく宗教が複数存在しているのか。異なる信仰を抱く人々はなぜ争うのか。宇宙の誕生とはどのようなものだったのか。多元宇宙は存在するのか。タイムパラドックスは解決さきるのか。未来予測は可能なのか。現代社会に降臨したGODが、神学的命題からSF世界の設定についてまで、語り尽くしていきます。

 

発端は河川敷で発見された女性の腕でした。ほどなく近所のベーカリーでアルバイトの美大生が女性の腕の形をしたバゲットを焼き上げ、それを絶賛した美大教授が、自身を「神の上の無限の存在である創造主GOD」が宿った存在であると言い始めます。やがてGODが全知全能であることが知られ始めますが、ある事件が起こって彼は裁判にかけられてしまいます。まるで「大審問官」のような展開ですが、GODにとってはそれも起こるべきことのひとつに過ぎません、やがてGODが降臨した理由も明らかにされるのですが・・。

 

タイトルにある「モナド」とは、ライプニッツが想定した世界を構成する最小単位のこと。著者が「モナドの領域」と名付けた世界は、天地創造から宇宙の終末までもが全て決定されており、全てが予定調和の中で整然と進行する世界のようです。もっとも「進行」などという時間を前提とした概念は、全ての時間が包含されているGODの世界では無意味です。生も死も、誕生も滅亡も、善も悪も「因果による事象」でしかないようです。

 

かなり魅力的な概念ではあるものの、もちろんこれらは著者の設定にすぎません。GODの言葉の中に「読者」とか「小説」という言葉が登場することで、読者のみならず登場人物たちも何かに気付くようです。本書の設定自体が壮大なパラフィクションであることが明かされるわけです。それでも人類の叡智や宗教論が最後に行き着くところが、ほのぼのとした自然愛と感謝であったことには救いを感じるのです。

と。

 

2023/3