りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ムーンライト・イン(中島京子)

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職を失って当てのない自転車旅行に出た栗田拓海は、夜の高原で激しい雨に降られてペンション風の家に飛び込みます。そこは世代の違う四人の男女がシェアハウスとしている場所でした。かつてそこでペンション経営をしていた高齢の中林虹之助。彼の友人で未亡人の新堂かおる。介護の仕事をしていたという中年女性の津田塔子と、若いフィリピーナのマリー・ジョイ。そこの住人たちはみな秘密の事情を抱えていて、突然の来訪者に怯えているようなのですが・・。

 

一夜限りの滞在のはずだった拓海は、謝礼として行った屋根の修理中にケガをしたことで、しばらく居候をすることになってしまいます。やがて彼が気付いていく住人たちの事情が、どれも現代日本を象徴するような問題であることがポイントですね。たった4人+1人の登場人物なのに、そこには老老介護、終の住処、人種差別、女性差別、非正規雇用、介護労働の環境、親子の関係、セクシュアリティなど、多様な問題が関わってくることに不自然さはないのです。

 

生きている限り次々と問題は現れる。そこから逃げてはいけないのは若者だけではありませんね。ただし正面突破だけが進路ではないとわかってくることが、人生の知恵というものなのでしょう。たとえ世界が焼け落ちても「life still goes on」なのですから、できるだけ上手に立ち回って体力を温存しておかなくては。まだ若い拓海も彼らと関わったことで、そのあたりの人生の機微を掴んだのでしょう。彼には次の大勝負が見えているはずですから。

 

2021/12