りぼんの読書ノート

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この本を盗む者は(深緑野分)

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全国に名の知れた書物蒐集家であった御蔵嘉市のコレクションは、稀覯本の盗難に激高した娘たまきによって閉鎖され、盗難者に対する呪いがかけられました。「この本を盗む者は」・・どのようなことになってしまうのでしょう。

 

時は過ぎてたまきも亡くなり、現在の館主は御蔵あゆむとひるねの兄妹になっています。あゆむの娘である高校生の深冬はなぜか本が好きではないのですが、怪我をした父親の代理で蔵書館に入館。しかしそこで盗難が発生。本の呪いが発動して、街は物語の世界に姿を変え、どこからか彼女を助けに来た少女・真白にも深冬自身にも影響が表れ始める始末。本泥棒を捕まえない限り元に戻れないと知った深冬たちは、マジックリアリズム、ハードボイルド、スチームパンク無人の街などの本の世界を冒険していくのですが・・。

 

本の世界に入り込む物語というとミヒャエル・エンデの『はてしない物語』を思い起こしますが、ファンタジー度はともかく、わけのわからなさはこちらのほうが上ですね。その理由は、最後になるまで真実が判明しないからなのでしょう。バスチアンの冒険の目的ははっきりしていたのですが、深冬たちの冒険は泥棒を捕まえても終わりません。そして深冬は本にかけられた呪いそのものと対決することになるのです。

 

著者は本書について「読者がいい意味で混乱してくれると作家冥利に尽きる」と語っています。でもその理由はわかっています。確かに本にかけれれた、読者を引きずり込むという呪いが解けることはないのでしょうから。

 

2021/12