りぼんの読書ノート

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スウェーデンの騎士(レオ・ペルッツ)

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デンマーク王国顧問官にして特命公使夫人であるマリア・クリスティーネの回想録には、不思議なことが書かれていました。「スウェーデンの騎士」と呼ばれた父は、母の懇願を無視して戦場に赴いた後も何度か深夜に娘の窓辺を訪れ、それは名誉の戦士を遂げた後まで続いたというのです。

その背景にあった物語は、1701年冬に始まっていました。ザクセン軍を脱走してスウェーデン王の許へ急ぐ青年貴族クリスティアンと、絞首台を逃れた宿無しで名無しの泥坊が、それぞれの追っ手をまくために身分を交換したのです。貴族になりすました泥棒は、北方戦争時代のシレジアを舞台にして、まずは強盗団の首領となって荒稼ぎ。次いで零落した若くて美しい女領主に求婚し、可愛い娘マリアも生まれて、幸福な生活をおくっていたのですが・・。

もちろん、そのままハッピーエンドということにはなりません。昔の強盗団の仲間の裏切りと、煉獄での苦役を終えた本物のクリスティアンの再登場が、泥棒を苦境に追い込んでいきます。途中、神のもとで審判を受ける白昼夢を見た泥棒は、「罪の重みをひとりで担い、誰にも告白してはならない」と言い渡されているのですが、その時は意味がわからなかった「罰」の重さを実感する時がやってくるのです。

1888年にプラハで生まれ、両大戦間のウィーンで成功を収めた「幻想歴史小説の先駆者」の技巧を楽しめる作品です。虚実皮膜の境目をスムーズに繋ぎ合わせることに加えて、偶然を必然と思わせることが、「幻想性」へ足を踏み出す第一歩のように思えてきます。

2016/4