りぼんの読書ノート

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日蓮(佐藤賢一)

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これまでの作品をすべて読み、極めて高く評価している著者の最新作なのですが、本書に関しては期待外れでした。主人公に全く感情移入できなかったのです。

 

日蓮の生涯については広く知られています。鎌倉時代中期に、大震災、疫病、飢饉に苦しめられている人々を救おうとした日蓮は、その原因を仏典から解き明かそうとします。彼が得た結論は、世の為政者が悪法に染まっているために、民を救うはずの仏や善神がこの国を去ってしまったということでした。釈迦の教えを説いた「法華経」が唯一至高の経典であるとして、浄土宗や禅宗のみならず、真言宗天台宗までも非難する日蓮は、他宗に法論を挑んでいきます。それは同時に浄土宗や禅宗を重用する北条一族を敵に回すことでもあり、数々の法難を招くことになるのですが、彼の信念は揺らぎません。やがて法典で予言された七難のうち、未だ起こっていないのは「他国侵略」と「内乱」のみと説く日蓮の正しさは、元寇が現実化したことでついに証明されるのでした。

 

まさに「苦しむ人々を救うため権力者たちと戦い続けた信念の人」なのですが、彼の言動は「狂信的原理主義者」としか思えませんでした。重箱の隅をつつくようにして他宗の教えの中にある欠陥を暴き立て、他宗の僧侶や信者や保護者たちを徹底帝に攻撃して、決して妥協しないという姿勢は、決して美徳とは思えないのです。さすがに日蓮自身が他宗に武力攻撃を示唆することはないのですが、多くの信者を犠牲者として巻き込んだのも事実です。日蓮宗が国家宗教とならなくてよかったと、つくづく思います。さすがに現代の法華経門徒には、そこまでの排外主義はないと思うのですが。

 

2021/8