りぼんの読書ノート

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レンブラントの帽子(バーナード・マラマッド)

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1914年にブルックリンで生まれた著者は、ロシアからアメリカに移住してきたユダヤ人の2世であり、全米図書賞を2度受賞するほどの大作家です。1986年に亡くなって以来、書店で見かけることはなかったのですが、2010年に3編の短編からなる本書が復刊されました。 

 

レンブラントの帽子」 

美術史家のアーキンは、美術学校の同僚である彫刻家のルービンと仲違いしてしまいます。きっかけはルービンがかぶっていた白い帽子を「レンブラントの帽子とそっくりですね」と言ったこと。いったい何が彼の気を損じたのだろうと、アーキンは思い悩みます。その背景には、ルービンが長らく傑作を作り出していない事情もあったようなのですが、2人が互いの心情を斟酌しながら内面滝に葛藤していた時間こそが、豊穣な時間だったのかもしれません。ラストの和解は、なかなかに感動的です。 

 

「引き出しの中の人間」 

ソ連を旅行中のアメリカ人フリーランスライターが、タクシードライバーから「自作の小説をアメリカに持ち帰って出版して欲しい」と頼まれます。ロシア人の熱情に心ほだされて読んでみた作品は、意外なことに傑作でした。ソ連入国時に書物を没収されたライターは、当局からの追及を怖れて依頼を拒むのですが・・。物語の結末は何とも皮肉なものでした。 

 

他に、ひきこもって荒れる息子に対して切々と訴えかける父親の姿を描いた掌編「わが子に殺される」が収録されています。 

 

2020/2