りぼんの読書ノート

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声の物語(クリスティーナ・ダルチャー)

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21世紀版『侍女の物語』とも称されている作品です。アメリカで超反動的な政権が樹立され、全ての女性から言葉が奪われてしまいます。1日100語を超えると強い電流が流れ、それでも違反を繰り返すと致死量にまで電圧が高まっていくワードカウンターの装着が義務付けられ、読み書きすら制限されてしまったディストピア世界。
 

 

1年前までは認知言語学者だったジーンは、優しいながらも反抗の声を上げられない夫、歪んだ学校教育の中で次第に女性蔑視論者となってく長男、怯えながら巣立つ幼い長女らとともに、このような世界の到来を許してしまったことを悔やみながら生きています。極右原理主義政策を現実化してしまったものは一握りの権力者ではなく、反動的な怒りに燃える大衆と、彼らを蔑視しつつ静観してしまった中立者たちだったのですから。 

 

そんなジーンのもとに、事故で脳に損傷を負った大統領の兄を治療する研究を再開するよう、特別な指示が下されます。しかしその依頼の背後には、さらに徹底的な反動政策に結びつく陰謀も企まれていたのでした。ジーンたちが引き起こす大逆転劇には少々無理を感じますが、いったんこのような世界が実現してしまったら、それを覆すには奇跡が必要なのでしょう。女性を束縛するツールは高度になっている反面、そんな世界をもたらす原因が妙に現実的に思える点に怖さを感じてしまいます。 

 

2019/8