りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

嵯峨野花譜(葉室麟)

f:id:wakiabc:20191005063724j:plain


文政13年の京都。事情あって父母と別れ、大覚寺未生流で修行に励んでいる少年僧・胤舜は、年若くして活花の名手との評判を得ています。実は彼の実父は、政治的野望を実現するために妻子を捨てた水野忠邦であり、実母・萩尾は病を得て息子を手放し隠棲しているのです。
 

 

師は華道未生流二代目の不濁斎広甫。師のもとに持ち込まれて胤舜に下される依頼は、さまざまです。「昔を忘れる花を活けてほしい」「亡くなった弟のような花を」「闇の中で花を活けよ」「公家の姉妹と花くらべをせよ」・・。その中には胤舜の父が忠邦と知って遺恨を持ち込む依頼や、母親からの切なる依頼も含まれているのですが、そのどれもが胤舜を成長させていきます。 

 

西行、待賢門院、祇王らの故事とゆかりの深い地で、繊細な感受性を持つ少年僧が、四季おりおりの草花に想いを込めていく場面は、どれも美しい。人情を知り尽くした著者による、心のこもった作品でした。武家の世界を得意とする著者ですので、実父・忠邦との対決がもっと前面に出て来るのかとも思いましたが、母が白菊に込めた遺言が「父を許せ」なのですから、仕方ありませんね。 

 

2019/10