りぼんの読書ノート

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ガラスの宮殿(アミダヴ・ゴーシュ)

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南アジアの20世紀は、植民地化、戦争、革命、独立、クーデター・・と、激しく揺れ動きました。インド、ビルマ、マレーを舞台にして、大きな歴史のうねりに翻弄されながらもたくましく生き抜いた、三家族・三世代の、百年に渡る物語。

1885年。イギリスによってマンダレーを追われインドに幽閉されたビルマ王室に付き従ったビルマ人侍女のドリーと、インド系孤児として育ち、チーク材業者として財を築き上げたラージクマール。王朝崩壊の日に、11歳だったラージクマールは当時ひとこと言葉を交わした10歳のドリーを忘れられず、21年後に求婚。

ビルマ王室幽閉の地でイギリス側に立つ行政責任者はインド人のエリート官僚でした。その妻であったウマは同世代のドリーと親交を結びますが、夫の死後、単身欧米に渡り、インド独立運動に身を投じるようになっていきます。

ラージクマールの恩人で、彼が父親とも慕うシンガポール華僑のサーヤ・ジョン。やがて彼は、ラージクマールを共同出資者としてマレーでゴム園を開きます。

3つの国を行き来しながら交流する3家族は、子孫にも恵まれて繁栄していきます。繁栄の頂点は、ドリーの長男ニールと、ウマの弟の娘マンジュとの盛大な結婚式。しかし、その直後、日本軍がマレー半島に上陸。

象使いによるチーク材の運搬も、ジャングルを切り開くプランテーションの開墾も、それぞれ興味深い物語でしたが、本書の中心となっているテーマは、イギリス帝国に組み込まれて、アジア各国で帝国の先兵的な役割を務めたインドの矛盾でしょう。イギリスのインド人部隊や、奴隷的なクーリーとして各国に散らばったインド人も、彼らを受け入れざるを得なかったアジア各国の人々も苦しむのです。

イギリスの命じるまま「無邪気に」殺戮を犯すインド軍を「悪魔」と感じるビルマ人や、植民地で生まれ育ち、本国の貧しさもカーストも知らないままに、インド帰国を願うクーリーの子孫たちの話も胸を打ちますが、最大の矛盾は、インド軍のエリート士官となった、マンジュの双子の兄アルジャンのケース。何のために戦うのか悩んでいたアルジャンはイギリス軍を離脱し、指揮下の部隊を率いて「インド解放軍」として、侵攻してきた日本軍の同盟軍となるのですから。もちろん、彼の矛盾は悲劇的な結末を迎えることにならざるを得ません。

そして1996年。ニールとマンジュの娘であるジャヤがラングーンで出会った、長年消息不明だった叔父は、なんと、軍政下で軟禁されているアウンサン・スー・チーの協力者になっていました・・。

魅力的な物語を通じて、現代に続いている矛盾を考えさせてくれる一冊でした。でも、そればかりではありません。本書の登場人物たちのような活力ある人々もまた、脈々と現代に続いているのですから・・。

2007/12