りぼんの読書ノート

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図書室からはじまる愛(パドマ・ヴェンカトラマン)

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なんとも野暮ったいタイトルですが、本書の舞台は1941年のインド。宗主国イギリスが参戦した第2次世界大戦と、そのイギリスからの非暴力独立運動に揺れる大国では、厳しいカースト制度と女性を蔑視の風潮が強く残っていたのです。 

 

上位カーストのブラーフマンの家庭に生まれながら、独立運動にも参加する進歩的な医師の父親のおかげで何不自由なく育った少女ヴィドヤの生活が一変してしまいます。彼女が独立デモ行進に飛び込んだ際に、父親が重傷を負って廃人同様になり、一家は旧弊的な父親の実家に身を寄せることになってしまったのです。親族たちからの束縛と抑圧に押しつぶされそうになるヴィドヤ。日本軍の参戦で厳しくなる戦況。しかし彼女は、出入りが禁じられていた2階の図書室と、そこで知り合った縁戚の青年に救われるのです。 

 

著者の母親は、一族で暮らした大きな家の2階にあった大きな図書室で、妹の子守をしながら読書をして過ごし、後に弁護士になった人物だとのこと。困難な時代においても自己実現を目指した少女のモデルは、母親だったのですね。 

 

原題の『階段をのぼって』のほうが素晴らしいタイトルなのですが、あらかじめ内容を知らないと伝わらないかもしれません。翻訳者も出版社も苦心したのでしょう。でも「愛」を強調するよりは良かったのではないでしょうか。 

 

2020/1