りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

また会う日まで(ジョン・アーヴィング)

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大好きなアーヴィングさんの、4年ぶりの新作です。母親に育てられた主人公ジャックが、38歳になってついに父親と出会うまでの物語。

母子を捨てた父親を尋ねて4歳のジャックを連れて北欧の港町を転々とする母親は、「お嬢アリス」と呼ばれる刺青師。父親は、身体中に楽譜の刺青を彫り続けずにはいられない、教会のオルガニストという変わった設定なのですが、ジャックは行く先々で父親に捨てられた女たちと出会います。

やがて父親探しをあきらめたアリスはトロントに居を構え、その頃から男子の入学を認めるようになった女子高に、5歳のジャックを入学させます。女たらしの父親譲りの美貌と演技力を兼ね備えたジャックは、幼い頃から年上の女たちを魅了し続けます。女生徒たち、女教師、未亡人たち・・。アーヴィングさんは年上の女性がお好みなのでしょうか。未亡人の一年でも、かなり年上の女性との純愛が大きな主題でした。

しかし本書では、女性たちとの関係は重要ではあっても、中心のテーマではありません。長じて映画俳優となったジャックは、母の死をきっかけに、今まで母から聞かされていた物語が全てフィクションであったことを知り、父親探しの旅をはじめることになります。それは同時に、自分自身を発見する過程でもありました・・。

長い物語です。ひとつひとつのエピソードが丁寧に書き込まれていて、それ自体が独立した物語のような味わいがあります。トロントメイン州レスリング、年上の女性、父親の不在、肉親の死、曖昧な記憶といった、これまでのアーヴィングにあった要素(熊は登場しませんでした)が、この本で再現されていくのですが、それらが全て、最終章に向かって収斂していくのです。そして、大迫力のエンディング!

魅力的ではあるものの他人との関係において常に受身であり、女性たちに囲まれながらも女性との本気の関係を築けなかったジャックが、ついに父親と出会った時に何を思うのか。そして、彼自身がどう変わっていくのか。これこそが最後に現れてくるテーマです。読者は、原題「Until I Find You」の「find」の意味を、最後になって理解することになるのです。

著者は、5年ほど前に突然の異母弟の出現に驚かされたといいます。作り込まれた物語のようで、実は、自伝的要素も濃い作品なのかもしれません。出張の間、じっくり読んで、楽しませていただきました。

2007/12(シンガポール出張中に)