りぼんの読書ノート

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転生(篠田節子)

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幼くしてチベットを追われ、インドを拠点に活動を続けているダライラマ14世は有名ですが、本書の主人公は、やはりチベット仏教の活仏であるパンチェンラマ。といっても、ダライラマチベット亡命政府に「転生者」として認定された直後に、中国政府に拉致されて行方不明となってしまったとされる11世の少年のことでも、中国政府が「公式に認定した」別の少年のことでもありません。

なんと1989年に急死してミイラとして寺院に「保存」されている10世が、突然復活してしまうのです。ところが、生きるミイラとして現世に活したラマは、とても高僧とは思えない煩悩の固まりで、食べ物に意地汚かったり、女性を追い掛けたりで、周囲をあきれさせてしまいます。

とはいえ、噂を聞きつけたチベット人たちは、救いを求めて押しかけてきます。一方で、中国内にとどまって宥和政策に協力したとされるものの、最終的には中国政府のチベット抑圧を非難して謀殺されたとの噂もあるパンチェンラマを、中国当局が危険視するのも当然。ラマは徐々に記憶を取り戻して、高僧らしくなってくるのですが、然るべき寺院に収まって欲しいとの信仰者の願いをよそに、チベット各地の行脚をはじめます。

そんな中、聞こえてきたのが、中国当局の危険な自然改造計画。ヒマラヤの一部を核で崩し、黄河と長江の源流であるチベット高原にモンスーンを引き入れて中国本土の水不足を一気に解消しようという、とんでもない計画ですが、あの国ならありえそうと思えてしまうのが、リアルに怖い。中国政府を相手に立ち上がったラマは、チベットの自然を守れるのでしょうか。

突拍子もない設定の本ですが、煩悩にまみれながら平和を求める高僧は、妙に親近感を感じさせてくれるキャラですし、痛快なエンディングの後で、あらためてチベットが抱える問題の深さを考え込まされてしまうような作品に仕上がっています。

2007/11