説話集の最後を飾る、鴨長明作の『発心集』は、本書に収録されている他の物語と比較して、正直言って地味な物語。訳者の伊藤さんも「話の後のコメントが長くておもしろくない」とコメントしているほど。しかしこの作品は純粋な「仏教説話」であり、著者の「真摯な気持ち」が伝わってくるとも述べています。
そもそも鴨長明自身が、「家を出て、世をそむけり」という隠遁者なんですね。本書に登場する「玄敏僧都」も、「平等供奉」も、「千観内供」も、「増賀上人」も、「筑紫上人」も、「教懐上人」も、「書写山の客僧」も、「上東門院の女房」も皆、隠遁の道を選んで無我の境地に辿り着いた人々なのです。
煩悩を消すことができずに往生し損なった者の話のほうが面白いとは思いますが、そういうエピソードを加えなかったことも含めて、訳者の姿勢が現れているのでしょう。
2016/7