りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

お菓子放浪記(西村滋)

イメージ 1

シャンソン風の、「お菓子の好きなパリ娘」という歌があります。1920年に日本で作られた歌ですが、なぜか母がよく歌っていました。この本を貫いて流れているのは、このメロディ。

でもタイトルから想像されるような、お洒落な本ではありません。日本が戦争へと向かう時代に、孤児として生を受けたシゲル少年が「お菓子への憧憬」を心の支えにして、厳しい時代を生き抜いた物語。

彼を万引きで逮捕した刑事さんが、こっそり渡してくれた菓子パンと、少年院の保母さんが歌ってくれた「お菓子の好きなパリ娘」によって、お菓子は彼の中で人間の善意を象徴するものへとなるのです。

この本は、著者の自伝なんですね。彼は戦後「お菓子への憧れ」を、「平和への憧れ」に昇華させていき、作家として身を立てるに至ります。

豊かになって、お菓子は簡単に買えるものになりました。でも最近のお菓子は「ニセモノっぽく感じてしまう」と、後書きに書かれています。現代の社会で、人間の善意や平和を希求する心の象徴になるものは、いったい何なのでしょう。

2006/9