りぼんの読書ノート

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派兵の代償(トマス・E・リックス)

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2004年のアフガニスタンからストーリーが始まります。アフガンゲリラをアメリカ軍が補佐しているというのが奇妙ですが、本書は9.11以前に書かれた作品でした。

「近未来」って、すぐに到来しちゃうから危険ですね。世界情勢や科学技術の前提が大きく外れると、すぐに陳腐化してしまいますので。でも、その部分は本書の主題とはあまり関係ありません。

軍部の反対を押し切って、ホワイトハウス主導で決まった海外派兵。経験も装備も不十分な偵察隊が全滅したときに、アメリカが直面したのは「シビリアン・コントロール」の危機。あくまでも「大統領の決定には従う」という軍上層部に対して、部隊指揮官クラスから不服従の嵐が巻き起こるのですが、それを煽動していたのは、次の軍トップを狙う野心家の将軍。

もちろんお話の中では、英雄的な活躍をする女性少佐と軍部の良識派によって、そんな企みは阻止されるのですが、「民主主義国家のお手本」を自認するアメリカでさえ、こんな危険があるってことをフィクションにした本なのでしょう。

どうやら軍部の不満の背景としては、女性、障害者、同性愛者などを軍に受け入れる政策に反対する「武闘派勢力」が多数いることが、原因のひとつのようです。地政学的な問題を抜きにして、良識派将軍の副官を務める「主人公の女性少佐」を巡るフェミニンなストーリーとしても楽しめます。

男社会である軍部で女性がキャリアを積んでいく苦労に加えて、なんと恋人は「野心家の将軍の副官」なのですから。^^;

2005/7