りぼんの読書ノート

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サムライ・ノングラータ(矢作俊彦)

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1892年というと明治25年、日清戦争の2年前にあたります。この時期アメリカは太平洋進出を目論み、ハワイ併合を目指していました。独立ハワイ王国の継続を求める勢力が頼りにしていたのは、かねてより友好関係を維持していた日本。

本書は、その歴史的事実を背景にして、元海軍士官のサムライ鹿島丈太郎と、元南軍兵士のガンマンが対決するという物語。米軍に誘拐されたハワイ王女・カイウラニを救出せよとの密命を受けた丈太郎は、怪しい仲間たちとチームを組んで、ハワイへと乗り出します。前半は豪華客船を舞台にした海洋冒険活劇、後半はハワイのダイヤモンドヘッドに築かれた米軍秘密危地に潜入する本格アクション。

「多くの事実の中に、ちょっとだけ嘘を交えた作品」と著者が言うように、この時期の日本・ハワイ関係は濃厚だったんですね。訪日したカラカウア王が、自分たちの手で近代化を進めようとする日本の姿勢に感動し、日本人のハワイ移民を推奨したり、カイウラニ王女と山階宮定麿親王の婚約を申し入れたりしたのは、どれも事実。アメリカ人農場主たちが起こしたクーデター勃発に際して、東郷平八郎を艦長とする巡洋艦の派遣も行われ、この時には併合の動きを阻止したことも事実です。

日清戦争前夜の不穏な国際関係を織り込んだり、身分を伏せてですが山階宮定麿親王を丈太郎の副官に配置したり、会津で敗残した剣客や清水次郎長一家の侠客を救出チームに加えたりと盛りだくさんなのですが、膨らませすぎて肝心の「サムライとガンマンの対決」構図が弱くなった気がします。また、カイウラニ王女誘拐の顛末が「スター・ウォーズ:エピソード1」のクイーン・アミダラのケースと同じアイデアだったのもマイナス点でしょう。

2013/9