りぼんの読書ノート

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降臨の群れ(船戸与一)

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インドネシア東部のマルク州の首都アンボンは、オランダの支配拠点だった時代が長かったことから、プロテスタント人口比率が高い地域だとのこと。1991年1月には、イスラム教徒とプロテスタントの間で宗教戦争が起こって、4000人の死者と40万人の難民が発生。その3年後。アメリカ軍のイラク進攻が確実視される中で、信仰と欲望、憎悪と復讐の炎が再びアンボンを包もうとしています。

インドネシアでエビの養殖池を探索している笹沢は、突然、インドネシア軍情報部から、アンボンに向かって欲しいという要請と脅しを受けます。かつて助手として使っていた男が、アルカイダ接触した後にアンボンに現れたというのです。笹沢にとってアンボンは、太平洋戦争時に駐留していた父親が軍事裁判で処刑された因縁の土地であり、訪れたい場所ではなかったのですが・・。

現地では案の定、イスラム教徒とプロテスタントが一触即発の状態になっていましたが、それだけではありません。背後にはそれぞれ、アルカイダらの原理主義者や、南マルク共和国の分離独立主義者が控えており、そのどちらも許せない民族主義者の軍部や、利益追求のみを図るカトリックの華僑や、武器商人、さらにはCIAまでもが、アンボンで蠢いていたのです。

やがて増幅された憎悪が沸騰点に達し、多くの血が流れることになるのですが、そこには勝者はありません。こういう小説を書かせたら、船戸さんの右に出る人はいませんね。本書を含む「東南アジア5部作」の直後から書き始められた満州国演義シリーズは、「船戸ロマン」の集大成となりました。

2016/6


【東南アジア5部作】
・虹の谷の五月(フィリピン) 2000/5
夢は荒れ地を(カンボジア) 2003/6
・降臨の群れ(インドネシア) 2004/6(本書)
蝶舞う館(ベトナム) 2005/10
河畔に標なく(ミャンマー) 2006/3