りぼんの読書ノート

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泣き虫弱虫諸葛孔明(酒見賢一)

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酒見さんのデビューは、第1回ファンタジーノベル大賞の『後宮小説』。中国の架空の王朝に入宮した田舎娘「銀河」が、慣れない宮廷生活にとまどいながらも、正妃の座を射止め、反乱軍による王朝滅亡の危機に際して大活躍する、爽やかストーリー。

孔子儒教を陰で支えた「巫術集団」の顔回を主人公に据えた大作「陋巷にあり」も良かったけど、飾らない口調で古代中国への想いを綴る「各巻のあとがき」も好きでした。膨大な知識を持ち、歴史の怖さや凄さを知り尽くしながら、わからないこと、理解できないこと、感覚がずれていることを、軽妙な口調で語る素直さが好ましかったのです。

そんな酒見さんが挑戦したのは、あの「三国志」の「諸葛孔明」。『陋巷にあり』のあとがきが480ページ続く本」と評した人がいますが、まさにそんな感じ。数々の伝説に彩られ、コミックやゲームを通じて日本でもファンの多い諸葛孔明のキャラを、史実と伝説から推測して描き出し、彼の不思議さと異常さ(もっとはっきり言うと、常人の理解を超えたわからなさ)をズバッと斬ってくれます。

もちろん、劉備関羽張飛の3人もターゲット。この3人から妙に頼られ、こき使われて、心神喪失の一歩手前になる「徐庶」のエピソードは爆笑もの。確かに、張飛に酒を迫られたら怖そうだなぁ。徐庶の去った後、劉備軍団の「軍師」となるまでの「若き孔明」が描かれています。これ読んだら、三国志孔明のファンは怒り出すかも(笑)。

途中、三国志の英語訳が紹介されてるけど、こっちはまるで「アナザー・ワールド」。まるで、マカロニ・ウェスタンの世界です。ドン・ヅォ(董卓)はアウトローたちのボスで、リュ・ブ(呂布)は非情のロンリー・ソルジャー。チャン・フェイ(張飛)がキャンプ(砦)で敵を倒すと、クワン・ユー(関羽)が「ナイス・アタック、ブラザー!」と声をかける。コン・ミン(孔明)なんて、スリーピング・ドラゴン(臥龍)だもんなぁ(笑)。おもしろかったんで、いっぱい引用しちゃった。^^

ところで、本書の孔明を読んで私が連想したのは「経営コンサルタント」。訳わからない理論を振りかざし、現場のことも知らないくせに、妙に自信たっぷりの口調で「問題点」を指摘したうえで「改善策」を提示して、経営者に「決断」を迫る連中。コンサルを現代の「軍師」と考えれば、納得も出来ます(笑)。

2005/5