りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

分解(酒見賢一)

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著者初期の中短編を収録した文庫です。デビュー作後宮小説から、大力作の『陋巷にあり』、執筆中の泣き虫弱虫諸葛孔明に至るまで、「中国史」に題材を採った作品が多い中で、異色の作品が揃っています。

ピュタゴラスの旅」
数学家にして哲学家、魂の浄化を追求する教団すら率いていたピュタゴラスは、なぜ旅人としての本質を貫いたのでしょう。聡明な弟子テュウモスに対して、彼は答えるのです。「世界を正確に把握しただけで何ができるというのか」と。

エピクテトス
奴隷として生まれながらストア派の哲学者として名を残したエピクテトスは、どのようにして精神の自由と、不条理な運命を同居させていたのでしょう。皇帝ネロとの対比が鮮やかです。

音神不通」
「最初の一滴の音」を求めて町をさまよう音神が見出したものは、何だったのでしょう。音を失うと実態が消え去るというのは、怖いですね。

「分解」
ありとあらゆるものを分解する「分解者」が、銃、人体、小説、そして意識の分解に挑みます。

「この場所になにが」
建物が消えた後の空地には、何があったのか。よく感じることですが、この作品の展開は不気味です。

「泥つきのお姫様は」
ドタバタで結婚することになった男女それぞれのご先祖様たちが、喧々諤々で言い争うコメディです。この2人、「あちらの世界」に行ったら、ご先祖様たちから散々クレームをつけられるはず。

「ふきつ」
虫の知らせが、一気に不幸を招きよせてしまいます。悲劇ですが、ユーモアを感じる作品。

「童貞」
治水の功をあげて夏王朝の始祖となった禹の少年時代が描かれます。女系氏族に生まれながら運命に飽きたらず、黄河を娶りたいとして村を出た少年は、何を得たのでしょう。タイトは残念ですが、やはり著者の「中国もの」はいいですね。

2015/12