りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

鍵のない夢を見る(辻村深月)

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読後に嫌な気分が残るミステリを「イヤミス」というそうです。この著者の作品も、そのジャンルに入るのではないでしょうか。ささやかな夢を求める女性たちが、いつしか深みに嵌ってしまう様子を眺めることは、後味が悪いのです。

「仁志野町の泥棒」
母と参加したバスツアーのガイドが小学校時代の親友だったと気付いたミチルは、彼女との苦い過去を思い出します。彼女の母親が近所で少額の空き巣常習犯だっただけでなく、彼女自身が万引きをしているところを目撃して、距離をおくことにしたのです。しかし久しぶりに再会した彼女は、ミチルのことを覚えていませんでした。

「石蕗南地区の放火」
共済で保険を担当している笙子は、不審火が出た場所に現場調査に向かった際、一日だけつきあったことがある消防団員の男性と顔を合わせてしまいます。実は彼が連続放火犯だったのですが、ひょっとしてそれは、笙子と出会うために行ったことだったのでしょうか。

「美弥谷団地の逃亡者」
美衣がケータイ・サイトで出会った男性は、ソクバッキーのDV男でした。「海に行きたい」という美衣の希望で房総に出かけたのですが、彼の振る舞いは今まで以上に粗暴なのです。いったい2人はどこに向かおうとしているのでしょう。

「芹葉大学の夢と殺人」
研究室の教授が殺されたと聞いた未玖は、かつての自分の恋人が犯人ではないかと不安に思います。常に自分本位で相手を傷つけ、幼稚な夢を真剣に語る男は、自分が卒業できなかったのは教授のせいだと思い込んでいたのです。3日後、逃亡中の男から電話を受けた未玖は、周りに嘘をついて男の元へと向かってしまいます。

「君本家の誘拐」
良枝がショッピングモールの中で半狂乱になったのは、さっきまで押していたベビーカーが、中にいた娘ごと消えてしまったからでした。やっと妊娠できて生まれた娘なのに、毎日泣き声に毎日悩まされて産後鬱状態だった良枝は、娘を疎ましく感じ始めていた自分を責めるのですが・・。

それぞれの物語の舞台が地方都市らしいことも、主人公たちの閉塞感を増していますね。2012年の直木賞受賞作です。

2016/5