りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

風の十二方位(ル=グィン)

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「ハイニッシュ・ユニバース・シリーズ」に分類される作品を中心に執筆年代順に並べた短編集です。冒頭の初々しい「セムリの首飾り」からラストの円熟した「革命前夜」まで、著者の思想や作風の成長過程を楽しめること、間違いありません。

「セリムの首飾り」 ロカノンの世界の冒頭に置かれた初期の短編です。失われた黄金の首飾りを探しに出たセリムの運命は、北欧伝説をベースとしたファンタジーのよう。

「四月は巴里」 仏文科教授がパリの屋根裏部屋からタイムワープした先は、ルイ11世時代の錬金術師の部屋。さらにはローマ支配下のパリからやってきた女性も登場し・・。タイムワープの条件は「孤独」ということなのでしょうか。

「マスターズ」 科学的思考が秘蹟として一部の修士たちに受け継がれている世界というと、どうしても中世的になってしまいますね。でも、現代だって似たようなものかもしれません。科学の成果を「魔術」と思わなくなっただけで・・。

「冬の王」 両性具有のゲセン人の世界の物語であり、闇の左手とリンクしています。退位も自殺も逃亡も陰謀に乗じられるという、追い詰められた状況で王がとった行動とは?

「帝国よりも大きくゆるやかに」 植物相がひとつの知性体となっている惑星グムに着陸した10人の乗員の中で、共感力者(エンパス)のオスデンは孤独な存在でした。相手の嫌悪感を読み取ってしまうなんて、拷問ですよね。しかし単独で森に入ったオスデンが感じたものとは・・。映画「アバター」のモデルのような作品です。

「オメラスから歩み去る人々」 絶対の幸福が約束された都市オメラスには貧困も争いも不公平も不誠実もなく、ほとんどすべての人々は完璧な幸福の中に生きています。たった1人の「例外」を除いては・・。1人の絶望の上に成り立つ幸福というものは、許容すべきなのでしょうか。

「革命前夜」 生涯を革命に捧げて年老いたオドーが、革命の成就を目前にして自らの人生を振り返ります。少女時代の貧困、同志であった夫を亡くした寂寥感、そして人々が彼女に抱く虚像と実像のギャップ・・。彼女の理想がどのように結実し、どのように形骸化したのかを描いた所有せざる人々と合わせて読むべき作品でしょう。

他には『ゲド戦記』とリンクしている「解放の呪文」「名前の掟」、ドラッグトリップのような「グッド・トリップ」、おなじ戦いを永遠に繰り返す王子たちの物語「暗闇の箱」、クローンの人格を問う「九つのいのち」、宇宙で神性らしきもの触れた者たちが陥った異常を描いた「視野」、樹齢132年の樫の木の視点から人類の歩みを眺めた「相対性」など。

2013/6