りぼんの読書ノート

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ガープの世界(ジョン・アーヴィング)

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社会現象となるほどのベストセラーとなった、アーヴィングさんの第4作めの長編で、いまだに「代表作」といわれ続けている作品を再読しました。とにかく大好きな小説です。

後に女性解放のリーダー的存在となる看護婦ジェニーを母親に、死を目前にした兵士を父親に持ったガープは、レスリングコーチの娘で「読者」のへレンと恋に落ちて作家をめざし、卒業後に母と旅立ったウィーンでの体験を基にした作品で作家の道を歩み始め、やがてヘレンと結ばれて3児の父親となった後も不倫と姦通問題を起こし、息子たちの安全を願いながらも守りきれず、やがて母親も自分も不寛容の犠牲となるという物語が、なぜこんなにも読者を魅了するのでしょう。

その理由は、「次に何がどうなるのか」に小説の起源と醍醐味があるとの著者の主張を本書が体現しているからにほかなりません。現実世界における本書と対を成している、ガープが著わしたという小説内小説「ベンセンヘイバーの世界」が大ヒットした理由も全く同じです。

それに加えて、著者の分身といえるガープの生き方が多くの読者の共感を呼んだことも、本書が愛された大きな理由でしょう。「自分の愛する者に不幸が起こることを恐れすぎて、不幸がいまにも起こりそうな緊迫した雰囲気を創りあげてしまう男」であるガープは、本能と理性、寛容と不寛容の間を彷徨い続けながらも、自分に正直に生ききったのです。著者は本書のテーマについて、その後もずっと書き続けることになります。

「忘れないでくれ。記憶しておいてくれ」とのガープの願いは、この作品のもうひとつのテーマでもある、マルクス・アウレリウスの言葉「人生とは短く苦難に満ちたものであり、人生の意味を見つけることは至難のわざである」にも通じるのですが、儚い人生の営みを記し続けることこそ、作家たるものの使命なのかもしれません。

最後に、医師となった娘のジェニーの言葉を記しておきましょう。ガープによればこの世界では「われわれはすべて死に到る患者なのです」と。

2012/5